2026年、労働基準法が改正される?
企業の実務対応に影響する主要な改正ポイント

コロナ禍の影響やデジタル技術の進展により、企業を取り巻く環境や働く人の意識が変化し、テレワーク、副業・兼業の増加など働き方の多様化が進みました。
これらの社会情勢の大きな変化に対して現行の法律が追いついていないという点から、政府は多様な働き方の推進と労働者の健康確保に焦点を当て、2026年度内での労働基準法の改正を目指しています。
この改正は約40年ぶりの「大改革」とも言われており、企業の労務管理体制、特に勤務管理と就業規則に大きな影響を与えると考えられます。実務に影響する主要な改正ポイントを紹介します。

参考:厚生労働省 労働政策審議会 (労働条件分科会) 資料

法改正イメージ画像

改正施行時期について

2025年12月現在、労働基準法改正については、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」や労働政策審議会で、改正に向けた具体的な議論が進められている段階です。 これらの議論を経て内容がとりまとめられ、早ければ2026年の通常国会(例年1月〜6月頃)に改正法案が提出されることを目指しています。
国会で審議された後、可決・成立すれば法律として決定します。国会での審議状況によりますが、提出された会期中またはそれ以降に決定する可能性があります。
法律の成立後、通常は施行までに一定の準備期間が設けられます。そのため、施行は2026年度以降の段階的な実施が見込まれていますが、正式な時期は現時点では未定となっています。

対応準備イメージ画像

検討されている主要な改正ポイント

2026年の労働基準法改正に向けて、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」などで労働者の健康確保や働き方の多様化に対応するための抜本的な見直し案が検討されています。 これらはまだ議論の段階ですが、検討されている主な改正内容は以下の通りです。

1. 定期的な休日の確保(連続勤務の上限規制)

労働者の健康を守るため、14日以上の連続勤務を禁止する方向で検討が進んでいます。
現行の法定休日の4週4休の特例では、「毎週1回の休日」の原則の例外として、4週間を通じて4日以上の休日があれば良いと認められる制度で理論上最長で48日勤務が可能になっていましたが、この特例を2週2休とするなど連続勤務の最大日数をなるべく減らしていく方向で制限される見込みです。

【企業の対応ポイント】
・「4週4休」の変形休日制を維持している場合、「2週間に2日以上の休日」(=13連勤が上限)という枠組みへの見直し
・13日を超える連続勤務となる予定を組めないようなシステム設定、14日以上の連勤が発生しそうになった際にアラートが出るなどの設定の変更

2. 法定休日の特定

14日以上の連続勤務禁止に伴い、法定休日を明確に特定する義務化も検討されています。
法定休日は、労働者の健康を確保するための休息であるとともに、労働者の私的生活を尊重し、そのリズムを保つためのものであり、また、法定休日に関する法律関係が当事者間でも明確に認識されるべきであることから、企業に対し、あらかじめ法定休日を特定することを義務付ける案です。
現在、多くの企業が週休2日制を採用していますが、法定休日と法定外休日の区別が曖昧な現状があり、法定休日が特定されていない場合、割増賃金の支払いに関して企業側と労働者間でトラブルにつながる懸念があります。
法定休日が明確に特定されることで、休日労働の割増賃金をめぐるトラブル防止につながる効果も期待されています。

【企業の対応ポイント】
・就業規則等で「いつが法定休日か」曜日や日を具体的に記載する
・法定休日の振替を行う場合の手続及び振替の期間の検討

3. 勤務間インターバル制度の義務化

「勤務間インターバル」制度とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するものです。
これは現在、努力義務に留まっていますが、勤務間インターバル時間として原則11時間以上の休息時間を確保することを企業に義務付ける案が検討されています。
様々な勤務実態がある中で、多くの企業が導入しやすい形で制度を開始するなど、段階的に実効性を高めていく形が望ましいと考えられています。

【企業の対応ポイント】
・深夜まで残業した翌日は、強制的に始業時刻を後ろに倒すなど、制度(およびその際の給与控除を行わない等のルール)の策定

4.つながらない権利

「つながらない権利」とは、勤務時間外や休日(退勤後、休暇中など)に、従業員が仕事に関するメール、電話、チャットなどへの対応を拒否できる権利のことです。 デジタルデバイスの普及による公私混同の防止、従業員の心身の健康保護、ワークライフバランスの確保を目的とし、フランスで法制化されて以来、欧州などで法制化が進んでおり、日本でも働き方改革の一環として注目されています。
勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要になるとして、このような話し合いを促進していくためのガイドラインの策定が検討されています。

【企業の対応ポイント】
・通知可能な時間帯、どのような連絡までが許容できるかの範囲など、総合的な社内ルールの整備

5. 有給休暇時の賃金算定における通常賃金方式の原則化

年次有給休暇を取得した際の賃金計算方法について、現在認められている複数の方式のうち、「所定労働時間で支払われる通常の賃金」を支払う通常賃金方式を原則化する方向で見直しが検討されています。
現行定められている年次有給休暇取得時の賃金の算定方法としては、以下の3つの方法があります。
(1) 労働基準法第12条の平均賃金
(2) 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
(3) 当該事業場の労働者の過半数代表との労使協定により、健康保険法上の標準報酬月額の30分の1に相当する額
(1)や(3)の算定方法では日給・時給制の労働者には計算式上賃金が大きく減額され不利となってしまう課題がある事から、原則として(2)の「通常の賃金」を支払う方式に統一する方向で検討が進んでいます。

【企業の対応ポイント】
・平均賃金方式や健康保険法上の標準報酬日額を採用している場合、通常賃金方式への移行を検討
・通常賃金方式へ移行する際、労働者にとって賃金面での不利益となるケースがないかシミュレーションを行う

6. 副業・兼業における労働時間通算ルール見直し

現行制度では、本業先と副業・兼業先での労働時間を通算し、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた部分について、原則として後から労働契約を結んだ会社が割増賃金を支払う必要があります。
労働者の健康管理のために労働時間の通算管理が必要である一方、割増賃金の支払に係る労働時間の通算管理については、制度が複雑で企業側に重い負担となるために副業・兼業の認可や受入れを難しくしているという課題がありました。
副業・兼業は労働者の自発的な選択であり、時間外労働の抑制を目的とする割増賃金の趣旨が、労働時間を通算した上で本業先と副業・兼業先の両方の使用者に及ぶ必要はないという考え方から、健康確保のために労働時間を通算して把握する仕組み自体は維持しつつ、割増賃金計算のための労働時間の通算は不要とし、それぞれの事業場で発生した時間外労働に対する割増賃金のみを支払う形とする方向で検討が進められています。

【企業の対応ポイント】
・労働者の総労働時間を把握する義務(安全配慮義務)は残るため、労働時間の把握方法と「合計時間の上限」の社内ガイドラインの検討
・他社の労働時間を加味して残業代計算を行っていた場合、計算ロジックを自社完結型に切り替える給与計算ロジックの修正

7. 法定労働時間週44時間の特例措置の廃止

労働基準法では、法定労働時間は原則として1日8時間、週40時間と定められていますが、特定の業種かつ小規模な事業場については、労働時間の上限を週44時間とする特例措置が認められています(商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業で常時10人未満の事業場など)。
しかしながら、2023年に実施した「労働時間制度等に関するアンケート調査」では、この特例措置の対象となる事業場のうち、約8割の事業場がこの特例措置を活用していないという結果となりました。 これにより、制度は概ねその役割を終えていると考えられることから、特例措置を廃止し、働き方改革の流れに沿って法定労働時間を週40時間に統一する方向で検討がされています。

【企業の対応ポイント】
・自社またはグループ会社において、この特例を利用している「常時10人未満」の店舗や小規模事業所があるかの確認
・対象となる小規模拠点のシフト構成・人員配置と労働時間の抜本的見直し

働く人の画像

まとめ

2026年の労働基準法改正の目的は、多様な働き方を認め、労働者の心身の健康を守ることで、社会全体の生産性を高めていくことにあります。
法改正の内容を正確に把握し、就業規則や運用の実態と乖離がないか棚卸しを行い情報を整理しておくと安心です。
就業規則の見直しと共に、従業員へ変更内容や運用ルールについての説明と周知が必要となります。理解と協力を得られるように改正の背景を含めて丁寧に伝えると良いでしょう。
勤務時間の正確な把握や、煩雑化する労務管理を効率化するためには、ITツールの活用による自動化・省力化が不可欠となります。勤務管理システムや給与システムについて、法改正の影響範囲や改修の必要性など早めに確認をして準備を進めていきましょう。

資料請求・お問い合わせ